愛用品と称して紹介記事を書くのは2回目。今回はこのラルフローレンの腕時計である。
これは僕が会社を辞めて独立した際に購入した物で非常に思い入れがある。恥ずかしくも3年のローンで購入し、ちょうど今月にローンが終わったところでこの時計の紹介を書こうと思いついた。
独立する際、なにかひとつ区切りというか験担ぎとして少し高級なものを購入しようと決めていた。これから自分はどこか会社の者ではなく、ただの一人のフリーランスとして社会と接するようになっていく。その時に、何か自分に一つ適当な男ではないというアイテムが欲しかったのだ。車は普段使用せずバイクもあるので選択肢から外し、使用する機会も多い少し高級な腕時計に決めた。
はじめは誰もが分かるようなロレックスや、デザインが非常に好みなIWCなどにしようと思っていたが、購入すると決めてから雑誌やWEBを読み漁り、このラルフローレンの腕時計を見つけた。
ラルフローレン自体はRRLというワークやカントリーに上品さを足したようなラインが好きだった。ファッションブランドとしてのラルフローレンは知っていたが、そこまで腕時計が高級とは思ってもみなかった。例えばイッセイミヤケの様に、高くても5万程度で収まるものだと思っていた。
しかし想像以上に価格は高かった。ラルフローレンの腕時計、パッと聞き個人的にはいやらしすぎず響きもいい。「サファリ」シリーズがミリタリーな雰囲気があり比較的安価で惹かれたが、それよりも木をあしらった個性的な「オートモーティブ」シリーズが非常に気に入った。サファリシリーズより少し高価であり予算の2倍ほどしてしまったが、一大決心で気に入ったものを妥協したくなく、かといって手が届く範囲の「オートモーティブ・クロノメーター 45mm」に決定した。
ラルフローレンの腕時計は2007年からスタートしたらしく、リシュモンというカルティエやダンヒルといった高級ジュエリーブランドを擁する企業グループと提携して腕時計の開発・販売を始めたそうである。腕時計の店の人とも「高級時計のイメージが無い」という話をしたところ、そういうイメージもあるがラルフローレンは間違いなく「本気」でやっていて、非常にクオリティが高いという話を聞いた。
機構やギミック、装飾など腕時計において重視される点は様々だが、僕はとにかくこのデザインが気に入った。オートモーティブ(Automotive)コレクションということで、これはラルフローレン氏が所有している「ブガッティ」のメーターのデザインからインスピレーションを得てデザインされたそう。
Ralph Lauren公式サイトより引用
あまりに格好良すぎる。この車は世界に4台しかないらしい。クラシックでいてラグジュアリーの極みのような車だが、このメーターダッシュボードはたしかにゾクゾクする。今時の車でも似たり寄ったりばかりでなくこういうデザインのものをぜひ出してほしい。
2枚目の写真の右側のものも非常に憧れたが、僕が購入したものよりもさらに10倍近くの値段がしたので流石にあきらめた。
腕時計がなぜこんなにも価格が大きく上下するのかと店員に聞くと、ダイヤなどの装飾は話は別として、時計内部の機構には汎用のものがあり、それに合わせて時計をデザインするのか、それとも時計のデザインに合わせて機構をオーダーメイドするかで一つのものを作る手間が圧倒的に違い、それにより価格が上下するのだという。
オーダーメイドした物などは一人の職人が制作するのに半年ほど要すると聞き、その手間を考えると数百万というのも納得というか、安いくらいのものだよなあと思ってしまう。購入できるかどうかは別として。
購入したころは高級時計なんて似つかわしくないような人間で、時計屋に入ったときもその荘厳な店内の空気に圧倒されていた。高級スーツや一流の靴なんてものは持ち合わせていないので場違いではないかと心配しながらも店員さんはあしらうことなく優しく接してくれ、いろいろな話をしてくれた。
僕は昔から高級時計に憧れがあるタイプの人間ではなかったが、聞けば聞くほど腕時計の世界というものは奥深く、このために人生を賭ける人もいることにうなずけるほど感動した。
高級腕時計の世界の中ではかなり安価なものかもしれないが、個人的にはかなり背伸びして購入した腕時計であった。「この時計に似つかわしい男になる」と決意し、毎日この腕時計を付けている。身につけるものひとつにしても、自分の格を上げるには背伸びしたくらいのものを身につけるのがちょうどいいのかもしれない。
金属加工の職に就いている友人がいて、大体の金属製品はぱっと見でそれがプレスか旋盤などどうやって作られたかわかるらしいが、この腕時計はぱっと見ではわからないと言っていた。安物でない以上、この部分にもひと手間掛かっているのだろう。
とにかく気に入ったのがこのダイヤル面である。高級時計で木を使用しているのはラルフローレンの他に知らない。
「高級です」と主張するギラギラした装飾やメッキは一切なく、鈍く光る武骨なステンレスに車のメーターをもとにデザインされたダイヤル、そして最大の特徴である木製の輪。堂々とした佇まいに重厚な存在感がある。
リュウズにも「RL」の文字が。こういう細かいデザインも非常にうれしい。
これはかつてSR400に乗っていたときの写真だが、この腕時計はとにかく革手袋と相性がいい。
車を運転する方にも、薄い皮手袋にこの腕時計をつけてハンドルを握っていただきたい。
はじめはおそるおそる装着していたこの時計も、今では何事もなく装着できるし、いい時計をしているという見栄もない。ただ「お気に入りのアイテム」の一つを身につけているにすぎない感覚でいる。
あまりにラグジュアリーなものをいやらしく身につける大人にはなりたくないが、こういう風格あるものを自然と身にまとえる大人になっていきたい。